日別アーカイブ: 10月 8, 2013

【歳時記と落語】重陽の菊と酒。一人で飲む酒は・・・

10月8日は寒露、寒さが露を凍らせようとするという意味で、いよいよ涼しさから寒さへと変わっていく頃です。この頃になりますと、菊が咲き始めます。
大阪では、2005年まで枚方市にある「ひらかたパーク」で、「大菊人形」が開催されていました。1910年に「香里遊園地」(今の寝屋川市)で開かれたのが第1回という歴史ある行事でした。もう、大阪の秋というたら菊人形というくらい、馴染みのある行事でしたな。
第3回からしばらく枚方市で開かれたものの、金銭トラブルから1919年からは宇治の菊人形館へ、しかし1922年に菊人形館が焼失してしまいました。そこで翌年、いままで南海電鉄の後援で行われていた堺・大浜の菊人形が、枚方に移設を願い出て開催され、1924年には、その他の施設も整備されました。これが今の「ひらかたパーク」の直接の前身になります。つまり、菊人形こそ「ひらかたパーク」の起源やったんですな。
「大菊人形」は幕を下ろしてしまいましたが、菊人形自体がのうなったわけやありません。市民の手で今も菊人形は行われています。菊人形は百年かけて、まさに、枚方のもんになったわけですな。
菊と言いますと、10月13日は旧暦の9月9日で重陽、菊の節句です。陰陽思想では奇数が「陽」、中でも「九」は「究」であり「陽」の極まったものとされました。それで9月9日は「重陽」なんですな。他の節句も皆、この「陽」の数が重なる日になってますが、どういう訳か、この重陽だけは段々廃れてしもうた。
ずーと、遡って行事を見てみますと、平安時代には、「菊合わせ」というて、菊を愛でつつ歌を詠みおうて長寿を祈ったんやそうです。菊の花を酒に漬け込んだ「菊花酒」や、盃に菊の花びらを浮かべたもんを飲んだり、そんな風習は江戸の頃まではあったとか言います。
勿論、この風習は中国から伝わったもんで、あちらで「菊花酒」というと、菊の花を、葉や茎ごとモチキビとともに醸造して一年かけて作るんやそうです。
菊は、晩秋に寒さや霜に負けずに咲くところから「不老草」と呼ばれ、長寿をもたらすとされたんですな。菊の花を眺め、「菊花酒」を飲むというのも、菊にあやかって長寿を得ようという一種のまじないやったんです。
中国で菊を好んだ詩人というと陶淵明が有名ですが、重陽は唐代には非常に重要な節句とされていたので、唐の人も多く詩を残しております。

蜀中九日  王勃
九月九日望郷臺
他席他郷送客杯
人情已厭南中苦
鴻雁那從北地來

蜀中九日
九月九日、望郷臺
他席他郷 客を送るの杯
人情 已に厭う 南中の苦
鴻雁 那ぞ北地より來たる

九月九日憶山東兄弟  王維
獨在異郷爲異客
毎逢佳節倍思親
遙知兄弟登高處
遍插茱萸少一人

九月九日、山東の兄弟を憶ふ
独り異郷にありて 異客と為り
佳節に逢ふ毎に 倍(ます)ます親を思ふ
遥かに知る 兄弟 高きに登る処
遍く茱萸を挿して 一人を少(か)くを

秋登蘭山寄張五  孟浩然
北山白雲裏
隱者自怡悅
相望試登高
心飛逐鳥滅
愁因薄暮起
興是清秋發
時見歸村人
沙行渡頭歇
天邊樹若薺
江畔舟如月
何當載酒來
共醉重陽節

秋、蘭山に登り張五に寄せる
北山 白雲の裏
隠者 自ら恰悦す。
相望み 試みに登高すれば
心は飛び 鳥の滅するを逐ふ。
愁因は薄暮に起こり
興は是れ清秋に發す。
時に見る 歸村の人
平沙 渡頭に歇む。
天邊 樹は薺のごとく
江畔 舟は月のごとし。
何か当に酒を載せて來り
共に重陽の節に酔ふべし。

どうも、高台に登って酒を飲んだらしい。やや望郷の思いなんかが重なってくるようですな。
しかし、やっぱり酒というのは一人で飲むより、友達と飲んだ方が気分が宜しい。
さて、ある男が宿替えを致しまして、その町内に住む友達が尋ねてきますと、一席の始まりです。
友達が尋ねてきたところ、男は一人で壁紙を貼っております。見かねた友達が、
「なんぞ手伝うことないか」
「何もあらへん、これが終わったら、一杯やろう、坐っててくらたらええねん」
「座布団は?」
「そのへんの包みやったと思うけどな」
友達は座布団を出してやります。
「もう、ほんまに、一服しててや。――いうても火ぃがないねん。火ぃだけおこしといてもらおか」
まあ、自分がタバコを吸うのやさかいね、それくらいならと友達は火を起こしてやります。ついでに薬缶を探し出しまして、火鉢の上へ置いてやろうといたしますが、水壷の水が汚れてるんで、それも入れ替えてやります。
「あのなぁ、湯が沸くまで、うどん屋でうどん言ぅて来てくれる
か。東京の方は引越し蕎麦とか言うやろ。蕎麦好きゃないよってに、鍋焼きうどんにしよ。これで一杯呑めて腹も大きなるやないか」
友達がうどん屋に注文に行って戻ってきますと、ちょうど壁紙も貼り終わっております。
「知り合いから上酒をもろてな、今日は上燗で呑んでもらお。わしがちょっと見
てみよ、……少しまだぬるいかな? ぬるいかも分からんねぇ、……惜しいな。あ、水屋ん中にスグキがはいったあんねん。ちょっと持ってきてんか。あ、おおけはばかりさん。もうねんぼなと食べてや。どないや、少し熱くなったかな?……あぁどんならんなぁ、ちょっと熱いかなぁ。……ちょっと熱いなぁ……。こらいかん、やっぱり上燗で呑んでもらわないかん。……あれ、もうあらへん。大して入らんもんやねぇ。チャポンとしたらすぐ出来る、すぐ出来る」
酒が回って、段々友達の悪口になっていく。
「ハハハハ、お前、子どものとき鬼ごとしたん覚えてるか。お前、みんな帰ってしもうてんのに、ずっと一人で隠れとったなぁ。ぶっ細ぇ工なやっちゃ。
……ちょ、ちょ、待ち待ち。何すんねんな。そっち持って行くなちゅうねん。お前かて呑んだかてかめへんで、せやけど替わりばんこにいかな。ハハハハハッ、嬉しぃねぇ? 何ちゅう顔してんのん? えらい恐い顔してるやん。何か気に入らないことがあるの? そこがお前、気が利かんちゅうねん。機嫌悪いの? 気に入らんことあんねんやったら、何もこんなとこへ居ててもらわんでもえぇねん。去ねいねドアホ!」
「いないでかっ! もぉ二度と来ぇへんわい!」
友達は怒って帰ってしもうた。そらそうですはな、結局男一人でのんどったんやさかい。
「え、お待っとさんで」
「何や、うどん屋か」
「へ。けど、今のお方あれ、うどんの注文に来てくれはったお方と違いまん
のんか? えらい恐い顔して出はりましたで」
「放っとけほっとけ、酒癖の悪い男じゃ」

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